学術的 畑のイメージ写真

学術的な立場から

21世紀のとびらをあけよう

谷島清郎 副理事長

 谷島清郎         
NPOメダカの学校副理事長 
金沢大学名誉教授(医学博士)
日本健康学会・日本生化学会・
日本臨床遺伝学会会員    
金沢市在住 

「自然と生物の世紀」「心と教育の世紀」が見える

 21世紀は生物学の世紀といわれる。
 生物学には、動物や植物の生態系や発生・生殖・遺伝をはじめ生物体のつくりやはたらきなどの分野が含まれるが、多くの基本的な現象が科学的に明らかにされてきた。その一面人間は自分だけが地球に住んでいると錯覚してきたところがある。二十世紀も終わりに到ってその弊害が露呈してきた感がある。人々はこの点にようやく気づきはじめ、生物界の中の人間を基本から問い直そうとしており、遺伝学など最先端まで登りつめた知識やテクノロジーを生かして人間をみつめ直そうとしており、その意味で二十一世紀は正しく生物学の世紀だと言える。 歴史的にみれば、十九世紀には自然科学の基本が築かれ、二十世紀に入ると産業革命を中心に技術や生産などのそれは、次第に電子技術や情報産業へと移行して二十一世紀に突入したとみられる。
 NPOメダカの学校では、このような観点から二十一世紀における人間本来の生き方を基本的に理解するため、「自然と生物」「心と教育」の問題をじっくりと考えて行きたいと思っている。
            このとびら内では、そのための学習と体験を手助けできれば幸いです。

ガイドライン作成の経緯

概念についてLinkIcon

ガイドラインのポイント

アトピーという言葉の登場LinkIcon

メダカの学校の考え方

皮膚表面のつくりとセラミドLinkIcon

文献

セラミドの生化学LinkIcon

アトピー性皮膚炎・治療ガイドラインについて

----------- 正しい理解のために ---------------
 これは、平成12年(2000年)5月に、日本皮膚科学会が、川島眞教授(東京女子医科大学)を委員長とする「アトピー性皮膚炎・治療ガイドライン作成委員会」より公表したものです。皮膚科医としての立場からまとめられた治療ガイドラインである。アトピー性皮膚炎の治療は多種多様で、これまでにみられるものは次のとおりである。ステロイド外用薬、抗炎症薬(アズノール軟膏など)、プロトピック軟膏(タクロリムスという免疫抑制剤を含む塗り薬)、免疫抑制薬の内服(シクロスポリンなど)、食事制限あるいは食物除去療法(アレルゲンの除去)、抗アレルギー薬の内服(ザジテンなど、かゆみを抑える抗ヒスタミン薬)、漢方薬、超酸性水治療、保湿剤(ヒルドイドソフトなど)健康食品(SOD関連製品など)、消毒薬(イソジンなど)。
 これらをみてもわかるように、何が真実か迷うことになります。今回は、純学術的に研究と治験を交わしてきた皮膚科学会のガイドラインを正しく理解するためにガイドライン作成の歴史的背景を紹介することとし、これを基本にして治療法の学術的根拠と方法を学んでいきたいと考えます。

ガイドライン作成の経緯

(注:アトピー性皮膚炎に関するガイドラインには2つの系統があり、両方を併記してあるので注意して下さい。)
       1) 厚生科学研究班のガイドライン
       2) 日本皮膚科学会のガイドライン

1998年10月(平成10年)~1999年9月(平成11年)
日本皮膚科学会:1999年9月まで「アトピー性皮膚炎・不適切治療健康被害実態調査委員会」を設け、アトピー性皮膚炎の重症例について実態調査をはじめる。

1999年(平成11年)
平成8年度厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー総合研究および平成9~12年度厚生科学研究分担研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドラインの作成」を実施(文献2)。混乱しがちな本皮膚炎の治療に関して、実際の診療に携わる臨床医を広く対象として作成された。
       研究班主任:古江増隆教授、九州大学医学部皮膚科
       分担研究:山本昇壮教授、広島大学医学部皮膚科

2000年1月28日(平成12年)
日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎・不適切治療健康被害実態調査結果を記者会見にて公表。(文献3)

2000年5月
日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎・治療ガイドライン作成委員会:治療ガイドラインを公表。

2000年6月
「治療ガイドライン」を日本皮膚科学会雑誌に発表(文献1)。また、一般向けガイドブックを出版(文献4)。同時に「アトピー性皮膚炎
治療問題委員会」を設置し、7月7日から患者より直接相談を受け付けるシステムを開始。(事務局:金沢大学皮膚科教室内、文献5)

2001年4月8日
厚生科学研究「アトピー性皮膚炎の既存治療法の適応と有効性の再評価に関する研究」の一貫として、アトピー性皮膚炎治療
ガイドライン1999を改訂。ガイドライン2001を発行。
       研究班主任研究者: 古江増隆教授 九州大学皮膚科

以上のような経緯によって、日本皮膚科学会が、アトピー性皮膚炎治療ガイドラインを作成した背景には、日本に限定された本疾患の
医療の混乱があったようです。「不適切治療による健康被害の実態調査」をまとめられ、患者相談システム」を開始された日本皮膚
科学会アトピー性皮膚炎治療問題委員会委員長の竹原和彦教授(金沢大学医学部皮膚科)は、次のような点をあげています。(文献5)

1) 本疾患の原因そのものが十分に解明されていないため、様々な非科学的治療法が横行した。
2) 皮膚科と小児科の考え方の違いが1980年代後半から続いていた。すなわち、原因はすべて食物アレルギーであるとの考え方が
  提唱されたからである。
3) 1990年前半になり、一部の皮膚科医より「ステロイド外用薬を中止することでアトピー性皮膚炎を治せる」と主張する「脱ステロイド
  療法が提唱され、皮膚科医内での考えかたの違いがあった。

ガイドラインのポイント

--- 薬物療法と心身医学的側面、生活指導 ---

 本ガイドラインにおけるアトピー性皮膚炎の治療の原則は、ステロイド外用剤を用いる対処療法である。このことがはっきりとうたわれており、「現時点において、本皮膚炎の炎症を充分に鎮静しうる薬剤で、その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤はステロイドである」としている。ただし、治療の目標を達成し得ない例では、「悪化因子の検索が必要」とし、また、成人の重症例や心理社会的ストレスの関与例においては「心身医学的側面からの治療が必要である」と説いている。
 また、入浴、室内環境、身体環境などの面での生活指導の必要性も挙げている。
 なお、治療の前提となる診断基準については、日本皮膚科学会と厚生省心身障害研究班の2種があり、いずれも利用されている。

メダカの学校の考え方

 アトピー性皮膚炎の治療の混乱には、その他にもマスコミによるステロイド恐慌の問題や、アトピービジネスの台頭の問題も論じ
られてきたが、これらの混乱、迷いの最大の原因は、病因が明らかにされていないということであると考えられます。
 しかし、専門家の間でも、本疾患が多因性であることは認められており、アレルゲンや生活環境のゆがみの除去もあげられるし、
また、心理社会的ストレスが大きな問題としてとりあげられるようになった。

 メダカの学校では、活動の出発点から皮膚炎にかぎらず、様々な疾患の根本的な原因は身体機能の総合的な失調と考えており、
失調がもたらされるのは神経系、内分泌系など内部環境やリズムの乱れからとする一方、それに影響をもたらすのは、食事、睡眠など
生活環境であり、また動植物の生態系や地球のリズムなどの自然環境の変化も関与すると考えています。

 そのために、アトピー性皮膚炎の人がいると思えば、先ず「メダカの学校」へ入って、これらの失調をいかに修正するかを学び、
実践しようかと計画するわけです。(だから、これを武道の場合と同じように堂場と呼んでいる)。

 最近、アトピー性皮膚炎の発症と憎悪に関与する可能性があると指摘される皮膚表面の物質(セラミド)の減少が認められており、
減少の原因と疾患との因果関係の研究も進んでおり、それを抑える方法や検査法も開発されています。(文献67)

 こうした新しい見方や研究の進展をみると、皮膚炎の根底には、やはり免疫系の異常や遺伝的な体質の違いも考慮せねばならない
との認識が必要とおもわれます。

 ちなみに中国医学では、アトピー性皮膚炎の治療、漢方薬の処方としては、邪熱を取り去り、身体のうつ熱をとり去ることを目標に
しています。

 日本皮膚科学会の治療ガイドラインは、対処療法の基準を科学的に正確に示したものであると理解することができます。
皮膚炎の炎症を医学的に抑える治療として皮膚科への受診を正しく認識することがやはり大前提になるでしょう。

 しかし、セラミドの減少の研究や漢方処方からも推定されるように、根本的な治療には、身体内部の異常や遺伝的素因のことも
充分考慮する姿勢が必要と考えられます。

 いま、オーダーメード医療といって、個人個人に合った治療、投薬のことが叫ばれています。漢方や中国伝統医学は、
正しくこのオーダーメード医療であったのではないでしょうか。

 医師の正しい判断の下に、患者としての意見も理解してもらう医療が進められることを願って止みません。

免疫とアレルギーの概念について

 細菌感染などを防ごうという考え方が一番はじめに生まれたのは、古代中国の痘瘡(天然痘)に対し患者のかさぶたを粉にした
ものを鼻から吸い込ませるという方法であり、現在の免疫(疫病から免れる)という概念に通ずるものであった。これらが1700年代
はじめにヨーロッパに伝えられ、ジェンナーによって科学的に実証された。1800年代には、こうした基盤の上にワクチンが開発
されて予防接種が進められる。これによって獲得された疫病に対する抵抗力の本体は、抗体という物質(蛋白質)であることが
判明したのもこの頃であった。すなわち、免疫というのは細菌やウイルスなどのように外部から侵入した異物(抗原)に対応して
抗体が産生されるという生体の反応であることが明らかになった。
 ところが、1900年代に入って、このように病気に対して有益であるはずの予防接種(弱毒化した抗原、すなわちワクチンを用いる)
によってアナフィラキシーと呼ばれる過敏反応が起こることや馬の毛のフケに対して喘息発作の出ることなどが明らかになってきた。
 こうした混乱の中にあって、オーストラリアのピルケという小児科医が、免疫も過敏反応も共に細菌や毒素、花粉やフケなどの
刺激物(抗原)によって引き起こされる変わった働きであるとして両方を統一し、はじめてアレルギー現象と呼んだ。しかしそれ以降、
アレルギーという言葉は次第に病的な過敏症を指すようになり、疾病を防いだり治したりする免疫とは区別されて使われるように
なってしまった。
 ところが、近年の生物学や化学、医学などの進歩により免疫現象やアレルギーの詳細なしくみが明らかになってくるにしたがい、
やはりピルケが既に見抜いていたように、両者は身体の内外からもたらされる抗原の刺激、情報がどのように細胞や臓器に
伝達されて行くか、それを全体的にどれほどよく調整できるかで異なってくることが解ってきた。この調整には、遺伝的素因や
環境因子が影響することも明らかにされているが、現代を生きる私たちにとってアレルギーを加速するもの、例えば精神的ストレス、
酸化ストレス、食品添加物などに気をつけることはもちろん、建物や道路、地球環境を護って行く心をもつことが大切である。
体の調整法、食事法、生活習慣の改善法を再び学ばなければならない。

アトピーという言葉の登場 (免疫現象の史的展望)

1) ジェンナーによる種痘の前後

 ジェンナーといえば、”種痘”を思い出すであろうが、当時の免疫現象に関連した報告を年代を追って列挙し、アトピーという言葉が
どのようにして生まれ、どのような意味をもって使われてきたのかを振り返ってみよう。

Ben jamin Jesty (1774)
妻と2人の息子に牛痘を接種したといわれている。
Edward Jenner (1798)
An inquiry into the causes and effect of the variolae vaccinnae, A disease discoverd in some of the western counties of
England, particularly Gloucestershire, and known by the name of THE COW POX. London, printed by sampson Low,
Berwick Street, Soho; and sold by Law, Ave-Maria Lane; and Murray and Highley, Fleet Street.
 この報告は、はじめ論文として提出されたものであるが受理されなかったので、友人の Parry 医師に質問の形で渡したものと
なっている。内容は、上のベンジャミンと同様、牛や馬に接している人には痘瘡がみられないことから想像して、牛痘( Cow Pox)
を人に接種することを試み、痘瘡 ( Small Pox) に感染しないことを確かめた。なお、この論文には、イギリスの一地方ではあるが
牛や馬に接している多くの農夫や園丁の人たちの例が克明に記載されてあり、実証医学の基本として高く評価されている。

Louis Pasteur (1880)  弱毒生菌ワクチン作成、予防接種へ進む。
Karl von Landsteiner (1901) Uber agglutinationserscheinungen normalen menschlichen Blutes. Wiener Klinische
Wochenschrift 46: 1133,  1901.   血液型の発見。
chrles R.Richet(1902) Anaphylaxis 現象を記載。
Clemens von Pirquet (1906) Allergy 現象を記載。

2) 病気に対する抵抗性の獲得と特異的反応物質(抗体)の登場
Emile von Behring, 北里柴三郎 (1890) ジフテリアや破傷風の毒素を中和する抗体を証明。
(ハインリッヒ・ザッター著、 岡本節子訳 1999年 免疫学者ベーリングの生涯、近代文芸社 が参考となる)
Arthur F. Coca, Robert A. Cooke (1923)
On the classification of the phenomena of hypersensitiveness. J.lmmunology 8: 163 - 182, 1923.Atopyを命名。
[ 語 源 ]
免疫 lmmunity:munitus(賦役)から免れるの意味
アナフィラキシー
Anaphylaxis:phylaxis(防衛、保護)に欠けるの意味。
アレルギー
Allergy:allos(変わった)-ergon(力、働き)の意味。
アトピー
Atopy:a-topyすなわち tope(位置、場所)からはずれている、変わった現象の意味。同じような言葉のisotopeは、iso (同様)-
tope (位置)の意味で、radio-isotopeは、”放射性同位元素”と訳されている。

皮膚表面のつくりとセラミド

 皮膚表面を模式的にみると、図1のようになっている。すなわち、一番外側は角層(または角質層)といわれ、セラミドやコレステロール、脂肪酸等を多量に含んだ薄層状になっており、いわゆるラメラ(lamella,脂質多重層構造)と呼ばれる。
皮膚全体からみると非常に薄いにもかかわらず、このラメラによる皮膚最外層の被覆こそが、外界から細菌などの侵入を防ぎ、また、水分調節を行うなど重要な役割を荷う構造なのだと考えられている。(文献3~5)

セラミドの生化学、生物学

 セラミド(ceramide)の化学的なつくりは次の通りで、セリンというアミノ酸とパルミチン酸という脂肪酸が材料となって、
アミノ基(ーNH2)転移酵素のはたらきによって先ずスフィンゴシンというアミノアルコール類ができ、これが出発材料となる
セラミドが生成される。
表皮組織中では、リンや糖質といっしょになってスフィンゴリン脂質(スフィンゴミエリン)やスフィンゴ糖脂質(グルコシルセラミド)を
構成している。
 表皮の細胞は図1で示される基底層の上皮性細胞であるケラチノサイトが基本となっている。この細胞が絶えず分裂増殖して、
表皮へ分化(角化)して次々と有棘層の細胞ができ顆粒細胞となり、やがて核がが脱落して角質細胞となるのだが、この全体の
分化過程を通してスフィンゴミエリンやグルコシルセラミド(いわゆるスフィンゴ脂質)が生成されて行く。
 顆粒層にある層板顆粒の中には、これらのスフィンゴ脂質がコレステロールやリン脂質脂質分解酵素とともに貯留されている。
やがて角層に移るとき酵素によって加水分解されて角層は表皮全体からみれば非常に薄い一枚のフィルムのようなものだが、
この層におけるセラミドの含有量は極めて高く、肝臓や腎臓の約50倍、脳の約35倍といわれる。(文献6)。
 このセラミドには9種類ぐらいの分子のちがいがみられるが、角層において、それぞれたんぱく質と結合して角化不溶性膜を
形成したり(結合型セラミド)、コレステロールや遊離脂肪酸などとともに細胞間隙の脂質多重層、すなわちラメラ構造を形成する
(非結合型セラミド)。
 もちろん、セラミドは皮膚以外の組織中にも遊離型として含まれているが、その量は他の脂質成分(コレステロールやリン脂質
など)に比べれば1/10以下と少ない。しかしこの少量のセラミドは細胞の増殖抑制、分化の誘導、アポトーシス(細胞の自滅作用)を
引き起こすなどの大切な役割を荷っている。
 皮膚においても同様であろうが、特に最外層にあっては、外界からの刺激要因から生体を防御する薄層膜の形成に寄与し、
また、ラメラ構造の形成は、皮膚表面からの水分の喪失を防ぐという重要な意義も見逃せない。

文献

1. 川島眞 他、日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」
  日本皮膚科学会雑誌 110(7),1099~1104,2000.

2. 古江増隆 編,アトピー性皮膚炎治療ガイドライン 2001, 厚生省
 厚生科学研究事業 2001年4月.

3. 竹原和彦 他, アトピー性皮膚炎における不適切治療による健康被害の実態調査, 日本皮膚科学会雑誌 110(7),1095~1098,2000.

4. アトピー性皮膚炎治療ガイドライン作成委員会, 決定版! 専門医がやさしく語るアトピー性皮膚炎, 暮らしの手帖社,  2000年.

5. 竹原和彦, そこが知りたいQ&Aアトピー性皮膚炎の最新知識,医薬ジャーナル社, 2001年.

6. Okino,N.,Tani,M.,Imayama,S.,Ito,M.,Journal of Biological Chemistry 273, 14368 - 14373, 1998.

7. 今村光雄, 伊豆博幸, 佐野 睦, 伊藤 信, 今山修平, 加藤郁之進, アトピー性皮膚炎患者皮膚における細菌由来
  セラミダーゼ遺伝子の検索, 第74回日本生化学会記録, 生化学73(8),  848, 2001.

参考図書

  川島 眞, アトピー性皮膚炎がよくわかる本,小学館.
  竹原和彦,  アトピー知って - アトピー性皮膚炎の真実 -芳賀書店.